品川女子学院にてワークショップを実施

2020年5月12日
品川女子学院特別講義(しっぽコール)

2019年の5月から6月に、品川女子学院中等部・高等部(通称・品女)にて特別講座 「登下校の安全サポートサービスを開発しよう」と銘打ち、商品・サービス開発のワークショップを実施しました。


中学1年生から高校2年生までの約30名の希望者の生徒さんと一緒に、私たちが開発中のIoT防犯バッグチャーム「しっぽコール」のシステムを軸に、品女生が楽しく安全に学校生活を送れるサービスを考えました。


講座は全5回のワークショップ形式。イノベーション・新規事業創出の「デザイン思考」の手法を学びながら、最後は先生方や校外の企業のゲストの方を招待し、各班のアイディアを発表しました。


自分たちの感じる登下校の不安や危険について考えディスカッションしたり、プロトタイプを作り検証したりと、毎回とても熱心に取り組んでくれました。ここでは講座を振り返りながら、みなさんのアイディアをご紹介したいと思います。

目次

第1回 「しっぽコール」の紹介、登下校の危険について考える

まずはご挨拶をしてしっぽコールのご紹介。夜道の不安や危険についてのデータや、それに対するしっぽコールのアプローチなどを解説しました。

デモ機を用いて、実際に握って着信音が鳴ったり引き抜いて位置情報を共有する様子を体験してもらいました。

これから使う手法、「デザイン思考」の簡単な講義もしました。今回のワークショップでは、デザイン思考のプロセスを簡単に体験しながら「品女生のためのしっぽコール」のアイディアを創造すべく進めていきます。

デザイン思考はまず「顧客を知る」ことからはじめます。普段は実際に誰かを「師匠」とさせてもらい、その人に弟子入りしたつもりで観察をし経験の拡大をする「民族誌調査」を実施しています。実際にわたしたちも、働く女性や大学生に協力してもらい、夜道を歩く様子を詳細に観察・分析、インタビューも交えながらメンタルモデルを抽出する調査を行いコンセプトに反映しています。

今回は初級編ということで短縮バージョン。まずはA〜Fの6班に分かれ、
・登下校などで怖かったこと
・学校内で不安に思ったこと
・もし自分が危険な場面に遭遇したらどんな行動をとる?

という3つのテーマでお互いの経験や考えを共有します。友達から聞いた話などもOK。

電車通学の学生さんがほとんどのため、痴漢被害の経験談が数多く出てきました。他にも道での声がけなどの経験も多いようです。一方で、特に新入生はまだ通学に慣れておらず、上級生の不安にそこまで共感できない、具体的に想像できない、という意見もありました。

品女生は一人一台iPadを持っているとのことで、今回はGoogleドキュメント内にこれらの意見を記録してもらいました。

第2回 情報の公開範囲、IoTについて、アイディア出し

情報の公開範囲を考える

防犯は、できれば普段は考えたくないネガティブでセンシティブなテーマです。だからこそしっぽコールはいかにユーザーが安心して楽しく使えるか、サービス利用の心理的ハードルを下げることを重視しています。そのために考えるべき要素はたくさんありますが、今回は特に「情報の公開範囲」にフォーカスを当ててディスカッションをしました。

例えば、学校単位でしっぽコールを導入した場合、コミュニティ内(先生や生徒同士)だけで使える機能を考えることができます。その際に重要になるのが、自分の位置情報や不安、被害の状況の公開範囲です。これらは非常に重要な個人情報なので、公開範囲を慎重に設定する必要があります。

インターネット上に載るデジタル情報の特徴について、まずは講義形式で解説しました。

次に、第1回で出し合った・登下校などで怖かったこと・学校内で不安に思ったことをリストにした表を各班に配布します。

各項目に対し、自分がこの不安を感じた場合、誰にならその事実を共有して良いか、表に○、△、☓を記入していきます。公開相手の選択肢は「先生(男性)/先生(女性)/ 保護者/学校の友達/しっぽコール運営 /その他」を用意しました。

酔っぱらいに絡まれたことは男性の先生にも言えるけど、痴漢については女性の先生にしか教えたくない、親には心配をかけるから言いづらいことも友達なら言える、でも友達にも言いにくいこともある・・・など、各班で様々な意見が飛び交います。

しっぽコール運営になら共有してもよい、という意見も多かったです。不安について共有することで実際の人間関係に影響が出てしまうと嫌だな、という気持ちが大きいのかもしれません。

また、すでに学校付近や駅での不審者情報については生徒同士の口コミで共有されていることもあるようです。ただやはり新入生にはなかなか情報が共有されない、といった印象を受けました。

IoTってなんだろう?

さて、ここでもうひとつお勉強を挟みます。しっぽコールはIoT防犯バッグチャームです。IoT(Internet of Things)とは何か、スマート植木鉢「Parrot Pot」などを事例に解説しました。

IoTは実世界のデータを収集し、クラウド上で集計、分析することのできる技術です。しっぽコールの場合はデバイス内のセンサーやアプリに記録した情報をデータとして収集することができます。

IoTにはAI技術も深く関わってきますのでそちらも簡単に解説します。AIを活用した有名な事例として、横浜市のチャットボット「イーオのごみ分別案内」 を紹介しました。出したいごみをチャットで聞くだけで分別方法を教えてくれるチャットで、NTTドコモのRepl-AIというAPIを活用しています。
ネットでは、捨てたいものとして「旦那」を記入したら神回答が返ってきた・・・と話題になっていました(笑)名言から引用するなど、職員の方が工夫して設定しているそうです。

このように事例などから技術の仕組みを調べ共有するプロセスをデザイン思考では「技術の棚卸し」と呼んでいます。棚卸しをたくさんすることで、アイディアがいわゆる「夢物語」になってしまうことを防ぐことができます。本当はもっとディープに技術を調べメンバーと共有すると今後の発想が広がります。参加者のみなさん、ぜひIoTやAIについて自分たちでも調べてみてくださいね。

アイディア出し

さて、いよいよ今回の本題であるアイディア出しを開始します。「品女生のためのしっぽコール」のサービスを考えましょう。
ポストイットアイディエーションの方法を使い、とにかくアイディアの数をたくさん出します。あとで整理したときにわかりやすいよう、一人ひとり違う色のポストイットを使います。

適宜グループ内での発表を挟むので、他の人のアイディアに触発されて新しいアイディアが出てくることもあります。その場合はすぐにそれをまた自分のポストイットに記入します。もう何も浮かばない・・・というところまで、小さなアイディアもすべて書き出します。内容よりも、頭を柔軟にして発想を広げることがポイントです。そのために「数で勝負」。「人のアイディアを否定しない」というルールも必ず守ります。

十分アイディアを出し切ったら、アイディアの種類ごとに分類していきます。この時点ですでに各班の考えているアイディアの方向性や関心があることが異なることがよくわかります。この模造紙は次回でも使うので大事にとっておきます!

第3回 ペルソナ設定、ペーパープロトタイピング

ペルソナ設定

ペルソナとは、サービスを利用する人物について想像し、詳細に設定したものです。名前、性格、肩書、ゴールなどを具体的に考えます。第1回の「顧客を知る」パートで十分顧客のメンタルモデルを理解しているため、リアリティのある人物像を設定することができます。
今回のワークショップ用に、通学に使用する路線なども書き込める「ペルソナカード」というワークシートをオリジナルで用意しました。

メインのユーザーとなる「わたし」と、周囲の登場人物を最低二人は用意します。サービス運営者とやりとりする機能が多くなりそうな場合、「しっぽコール運営」のカードも使います。

次に、前回のポストイットの中からペルソナのために採用したいと思える機能をピックアップし、ペルソナの周りに貼っていきます。

大分アイデアの輪郭が見えてきました。ここで、サービスのコンセプトとゴールを文章で記述してみます。コンセプトは「誰が何をできるようになるものなのか」、ゴールは「このサービスを使うとどんな気持ちになれるのか」を考えて設定します。
※普段のデザイン思考ワークショップでは、「哲学とビジョン」という定義をしています。

ペルソナ同士を矢印でつなぎ、そのペルソナ間で利用される機能のポストイットを貼ります。この段階で新しい機能が思いつくこともあるので、その場合は追加します。

同時に、その機能のスマートフォンやタブレットの画面を考え紙に描きます。こちらでほぼ原寸大の画面の枠を用意し配布しました。このように紙に実際に描いて検証できるようにすることをペーパープロトタイピングといいます。ペーパープロトも模造紙に貼っていきます。

最終的には、このように機能とユーザーの関係性の全体像を把握できる図が完成します。

第4回 スキットによる検証、発表準備

第5回は発表当日ですので、今回が最後の講座になります。

スキットによる検証

前回のワークで、コンセプトもプロトも完成!というところまでいきましたが、本当にこの内容でユーザーは喜んでくれるか、不自然だったり足りない部分はないか、などを検証するためにスキットを行います。
スキットとは寸劇のこと。つまり自分たちがペルソナになりきって、このサービスを使ってみる演技をします。

ここで活躍するのが前回作成したペーパープロトです。自分のスマホやタブレットにテープで貼れば、画面を操作している演技ができます。このスキット検証のためにも、ペーパープロトは原寸大で作成することが重要です。

スキットはあくまでもコンセプトを検証するためなので演技力は必要ありません!ただしペルソナの気持ちを想像しなりきることが重要です。

スキットをしながら、不自然に感じた部分や追加したい機能などが思いついたらその場でまたペーパープロトタイピングをし、何度か検証します。
最後に、前回考えた「コンセプトとゴール」も修正します。

発表準備

いよいよ発表の準備にとりかかります。
今回は形式ををこちらで決め、Keynoteのテンプレートを各班に送りました

基本的にはこれまでの模造紙の清書ですが、清書をし構成する作業は内容の確認にもなります。納得のいかない部分が見つかったらここで積極的に直していきましょう。

先程のスキットの様子を撮影しておきました。この写真を使い、4コマ漫画風にしてストーリーとして発表資料にも挿入します。ペーパープロトが見えるよう、手元のクローズアップ写真も必ず入れます。画面と人物の両方を絵で見せることで、システムとユーザーの間のインタラクションを伝えることができます。

第5回 発表会

最終回は、各班がアイディアをプレゼンテーションする発表会です。先生や企業の方をゲストにお呼びしました。

それでは、各班のアイディアをかんたんにご紹介します。

鉄道会社や他校生とつながるしっぽコール(Aチーム)

Aチームは、主に電車通学のシーンで使うサービスを考案しました。登下校中に感じた不安などを鉄道会社に報告できます。また、同校の生徒同士や、同じ路線を使う他校の生徒とも情報共有されます。

高校生チームということもあり、実現可能性についてしっかりと考えながらコンセプトを練ってくれました。

「校内だけでクローズドにせず地域とも繋がりたい。でも寄り道禁止だから商店と繋がるのは違うかも・・・」とはじめは悩んでいましたが、他校生や駅との連携という今回の落とし所はとても合理的な地域との連携先で、今後の可能性を感じました。有意義な情報収集のために丁寧な配慮がされていることも細かい画面設計のペーパープロトから伝わってきました。

地域のお店とつながるしっぽコール(Bチーム)

Bチームは、夜道の不安や恐怖心によりそい、不安なときにかくまってくれるしっぽコールの認定店、友達と話して寂しさをまぎらわせるチャット機能、不安の共有先を都度選べる設定など、ユーザーが安心する機能をたくさん用意しました。他にも、実際に危険な場面では何もできないからゲーム感覚でクエストをすることでシミュレーションしておく、など、ぜひ参考にさせていただきたいアイディアが満載でした!

同じ地域に住む品女生同士で協力できるしっぽコール(Cチーム)

Cチームは、在住地や乗り換え駅、休日なら遊びに行く先など、同じエリアにいる生徒同士をつなげる機能を考えました。また、災害時などの使用シーンも想定しました。
第2回の「情報の公開範囲」の講座内容をとても意識してシステム設計に取り組んでくれました。むやみに公開範囲を広げず、本当に助けてくれる可能性のある人にだけ情報を送る、ということは実現するとユーザーの安心を生み出すシステムになると思います。
しっぽコール本体を握り続けることによって自動的に近くの品女生とチャットが開くなど、ハードとソフトの連携も上手です。しっぽコールがなければ面識のないままだったであろう品女生同士をゆるく繋げられるアイディアはいざという時の心の支えになりそうです。

音楽で人の気配を感じるしっぽコール(Dチーム)

Dチームのアイディアはとても個性的!友達と音楽を共有することで不安をやわらげます。家に帰ったときには明るい気持ちでいられる、ということをゴールに設定しました。

一人で下校する生徒も音楽をシェアすることで友達の気配を感じられるという発想はとても素敵です。ペーパープロトの画面設計もとても工夫が見られました。

キャラクターとコラボしたしっぽコール(Eチーム)

Eチームは、「楽しく可愛く」をテーマに、ディズニーキャラクターとコラボした画面を考案してくれました。アプリは使い続けてもらうことが難しいので、かわいい画面デザインにしたりアイテムを取得するためのゲーム要素を取り入れて飽きない工夫をすることが欠かせないと再認識しました。ペーパープロトタイプの画面も凝っていて、魅力が伝わってきました。

アプリをかわいく設計し、情報共有をしたユーザーはポイントがもらえて、貯めたポイントで着せ替えができる、というのは最近のソシャゲっぽい感じで、中高生らしい発想だな、と驚きました。不審者情報をあらかじめ知っておきながら、かわいいディズニーモチーフで明るい気持ちになれるのがいいですね。真面目に防犯に取り組んで、色々な情報を集めるとどうしても暗い気持ちになってしまうので、すごく大事な要素を提案していただいたな、と思っています。

なにかあったら大人に連絡してくれるしっぽコール(Fチーム)

Fチームは保護者も含めた大人が沢山出てくるのが印象的なサービスです。いつでも誰かに監視されている状態は嫌でも、本当に被害にあった時に頼れる人がいるのであれば、しっぽコールを通してすぐさま助けを呼んだり、被害状況を伝えられるというのはかなり心強いと思います。

システムではGPS情報の使い方を数多く考えてくれました。品川駅に着いたときにぽちっと押すと親御さんに送れる、待ち合わせのときに友達に送れる、などといった普段使いできるような設計がされていました。

先生やゲストの方々からのコメント

発表を聞いた先生方からの講評では、「教員として、学校として生徒の安全を守りたいという気持ちはあるが生徒たちは遠方からの通学なので誰がどこで困っているのかが把握できない。シェアや発信がしやすくて、共有したいと思っているのであれば対応もしやすいし教員の安心にもつながる。」といったコメントをいただきました。

今回はゲストとして、しっぽコールを応援してくださっている株式会社タイカさん、菊和製作所さんにも来ていただきました。ありがとうございます!

最後に全員で記念写真。全5回とあっという間の講座でしたが、短い時間内でみなさんとても真剣に取り組んでくださり、学生視点の様々なアイディアが生まれました。

終了後のアンケートでは、「発売したらぜひほしい」「校内の売店で買いたい」「家族や周りの友達などにもしっぽコールを紹介してみたい」「みんなで登下校の不安が共有できてよかった」「いつも話し合いで自分の意見を出すときはなかなかアイデアが思い浮かばなかったが今回の講座はアイデアがたくさん思い浮かんだ。考える過程も楽しかった」「サービス開発に必要な考え方を学べた」「しっぽコールのアプリを作ってみたい」などなど、嬉しい感想をたくさんいただきました。ありがとうございます!

我々開発メンバーとしても、学生のみなさんの気持ちを知ることができてとても有意義でした。早くしっぽコールを届けられるようがんばります!


しっぽコールは今後もぜひ様々な学校や企業の方とコラボレーションをさせていきたいと考えています。今回のような商品開発のワークショップや単発の講義、実証実験、協同でのサービス設計など、ご興味のある方はWEBサイトトップページのコンタクトフォームからお気軽にお問い合わせください。



また、今回のワークショップは、しっぽコールの開発会社の一つである株式会社ルースヒースガーデンが「デザイン思考ワークショップ」として企業向けに全12〜15回のプログラムで実施している内容からアレンジしたものです。企業向けワークショップに関するお問い合わせはこちらのホームページからお願いいたします。

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